「絶対の愛」

キム・ギドクの映画の中でベストかも。テーマは愛の唯一性である。Timeという原題は、時間に経過による、愛欲の低下に関連付けられると思う。
セヒは、恋人のジウが別の女を思い自分を抱いたことに、悲しみを覚えて、整形手術を受け別人になり、常にジウの関心を自分だけに向けようとする。ここにセヒの誤りがあったと思う。とはいえ、絶対の愛を願い、それに絶望したのなら、そのような突飛な行動も感情的には理解できる。
しかし、整形手術後のセヒの不気味なこと。あんな異様なマスクにサングラスの女を見たら、逃げ出すわ。
ともかく、セヒは、整形手術に成功し、別人になり、スェヒと名乗り、ジウに近づく。そして、スェヒとして結ばれるが、スェヒの気持ちは晴れない。スェヒはジウの中にセヒを探さずにはいられない。スェヒはセヒを演じ、セヒの名前でジウにラブレターを出す。そして、セヒのお面を被り、ジウに会う。これがまた不気味この上ない。ジウはその後スェヒがセヒであることに気づき、絶望するが、そこでジウの取った行動に驚いた。ジウはセヒを模倣するのである。これにより立場が逆転する。
この映画で描かれているのは、愛の不可能性の迷路に迷いこんだ男女である。これは絶対の愛を目指すという、セヒの法外な胸を打つ企図によるものである。
映画全体としては、一種の劇薬で、肺腑を抉る強烈さがある。スェヒ役の女優の切れた演技がすごい。走るときとか、まったく美しくない。音楽は最高に良かった。圧巻はラスト(オープニング)である。これは繰り返し見ないとわからないかもしれない。背筋が寒くなるようなラストである。